趣味としていろいろなものを集めているコレクターは数限りなくいるでしょう。昔から切手やコインを集めている人は多く、趣味が高じて専門家になった人もいます。
日本の私立の博物館の多くは、個人の財力で集めたものを基礎にしているところが多く、東京八重洲口にある日本和凧博物館は、レストランの社長が個人で集めたものです。東京上野の酒屋の若社長は世界のウィスキーのミニボトルを集めていて、地下室いっぱいに並んでいる光景が壮観です。
東京団子坂にある瀬戸内という小料理屋の社長は鉄道に関するあらゆる物を集めていて、新幹線の椅子が客席になっていたり、店内には時刻表やランプやらが所狭しと飾られていて、機関車のヘッドマークなどは店の前には乱しています。汽車ぽっぽの店として親しまれていますが、これも病膏肓のたぐいでしょう。
伊東君の会社でも昼休みにたまたまコレクションの話に花が咲きました。
「田代、お前は東京オリンピックの硬貨を三〇枚も持っているんだって。すげえな。一財産じゃないか。一枚譲れよ。」
「まだまだ。マンションが買えるまで、じっと辛抱しているんだ。」
これはちょっとオーバー。
「田原はなにを集めているんだ。」
「ミニカー。子供のときからだから五百台はあるかな。外車を含めて。」
「植田、お前は?」
「提灯。観光地で売っているやつ。少なくていいんだ。」
「瀬沼、お前は何を集めているんだ。」
何も集めていない瀬沼君は何となく肩身の狭い思いをし、困りはてて、
「俺はみんなの話を集めているんだ。」