愚(おろ)かな息子がおりました。
ある日,高い棚(たな)の上に乗せておいた飴(あめ)を,息子が見つけ,
「飴がなめたい,飴がなめたい。」と言ってききません。「ええい,仕方(しかた)がない。今,飴のかめを取ってやるから,お前は,下にいて尻(しり)を押さえろ。」と,梯子(はしご)をかけ,親父(おやじ)は取りにあがりました。薄暗い(うすぐらい)棚の上から,かめを取り出すと,息子の方へ差出し,
「いいか,しっかり,尻を押さえろよ。」
「それっ,手を離すぞ。いいか。」
「あいよ,押さえた。しっかり押さえたぞ。」
息子がいうので,安心した親父は,かめの手を離すと,なんと,飴のかめは,ドザリッと,土間(どま)に落ちて,粉々(こなごな)に砕(くだ)けてしまいました。
中に入っていた飴も,みんな泥(どろ)の上に流れ出してしまいました。
親父は,かんかんに怒って,
「あれほど,しっかり尻を押さえろと言ったのに,どうして押さえていないんだ。」と言いますと,息子,両手(りょうて)でしっかりと押さえた自分の尻を見て,「とうちゃん,おれは,こんなにしっかり押さえているよ。」