昔々、貧乏(びんぼう)で一人で住んでいる若い男がいました。
冬になり、雪がたくさん降っていました。ある日、若い男は深い雪の中を家に帰る途中(とちゅう)、へんな音(おと)が聞こえました。そのうめき声のような音がどこから来たのかを探しに、向こうの畑(はたけ)に行って見ました。鳴いている鶴(つる)を一羽(いちわ)見つけました。その鶴は、羽(はね)に矢 (や)を受け、泣いていました。苦しんでいる鶴を助けようと思って、矢を抜いてやりました。助けられた鶴は空へ飛び立ちました。
そして、その男は家へ帰りました。一人暮らしの貧(まず)しい人なので、生活(せいかつ)は寂(さび)しくて苦しく、普段(ふだん)はだれも尋ねて来ません。しかしその夜、家の戸をとんとんと叩(たた)く音が聞こえました。こんなに遅い時間の深い雪の日にだれが家に来たのかと思って、戸をあけてびっくりしました。美しい娘(むすめ)が立っていて、道に迷(まよ)いましたので男の家に泊らせてくれと頼みました。男は泊めてやりました。次(つぎ)の夜も娘は泊らせてくれと頼みました。また男は泊めてやりました。その次の夜も同じように娘は男の家に泊りました。
男はその美しい娘に女房(にょうぼう)になってほしくなって、夫婦(ふうふ)になりました。二人は貧乏でしたが、幸(しあわ)せで明るい家庭でした。近所(きんじょ)の人たちは二人の幸せを喜んでいました。しかし、長い冬が続いて、お金も食べ物もなくなり、二人はもっと貧しくなりました。ある日、娘は機(はた)を織ることにしました。男は家の奥(おく)の部屋(へや)に機を備(そな)えつけました。
機を織る前に、娘は男に頼みました。