「ぜったい許(ゆる)せません。早く織姫を連れてきなさい。」
女神は天から使いの者を出し、織姫を無理矢理(むりやり)に連れ去(さ)りました。
残(のこ)された牽牛と子どもたちは泣き暮らしました。しかし泣いてばかりはいられません。ある日、牽牛は二人の子どもを筺(かご)に入れて背負(せお)うと天の川の東に向かって歩き続けたのです。
何日も何日もかけて天の川の橋(はし)に到着(とうちゃく)すると、不思議(ふしぎ)なことに天の川は影(かげ)も形(かたち)も無くなりました。牽牛がどこに行ったのかと見れば、天の川は遠(とお)くに見えるのです。
女神が二人のなかを割(さく)ために、天の川の位置(いち)をもっと上に上げてしまい、牽牛が織姫と会えないようにしてしまったのです。牽牛と織姫はそれぞれ遠くで涙を流していました。
親子は遥(はる)かに遠くに引越(ひっこし)してしまった天の川をながめ泣きながら家に帰りました。家に帰り泣き暮らしていると、同情(どうじょう)した牛が囁きました。
「牽牛よ、わしが死んだら、わしの皮(かわ)を使って上着(うわぎ)を作れ、それを着たら、天の川に上(のぼ)れるぞ」
牛はそのまま息(いき)を引き取ったのです。牽牛は牛が自分の心をわかってくれたことと、死をもって自分の希望(きぼう)を叶(かな)えてくれようとしていることを知り再(ふたた)び泣きました。
彼はさっそくその牛の皮で上着を作り、それを着て子どもたちを筺に入れ、天の川めがけて旅立ちました。
親子が天の川に到着すると、星が至(いた)るところにきらめいていて、とても美しい光景でした。牽牛は妻に会える喜(よろこ)びで、もう有頂天(うちょうてん)になり、子どもたちは「お母さん」と叫(さけ)びました。
するとそれを見ていた女神はしっとで怒り狂い、天の川の真中(まんなか)に簪(かんざし)で線を引いて、親子を渡(わた)れなくしてしまったのです。
そして、女神は川の水が増(ま)し、天の川は大洪水(だいこうずい)になってしまいました。親子(おやこ)はたちまち川のゴウゴウと音のする波に揉(も)まれて溺(おぼ)れそうになりました。しかし三人はまだ諦めません。
「お父さん、この川の水を汲(く)んでは棄(す)てて、カラにしましょうそうすれば浅瀬(あさせ)になるでしょう。そうすれば何とかお母さんに会いに行けるでしょう」
牽牛は子どもの意見に従(したが)い、水を柄杓(ひしゃく)でくんではすて、水をくんではすて、懸命(けんめい)に天の川と格闘(かくとう)し始(はじ)めたのです。
父が疲れると女の子が替わりに、女の子が疲れるとと男の子が替わりに、順番(じゅんばん)に水をくんではすてました。
それを見ていた女神は憐(あわ)れに思い、三人に言いました。