昔々あるところに天の川(あまのがわ)と呼ばれるところがありました。そこは二つの世界(せかい)に分かれてており、一方は人間(にんげん)が住み、もう一方は神々(かみがみ)の住むところでした。人間の住むところは西の世界、神の住むところは東の世界となっており、双方(そうほう)付合(つきあ)いはありませんでした。
西の世界に、牽牛(けんぎゅう)という若い美しい青年(せいねん)が住んでいました。彼は牛飼いとして毎日牛とともに暮らしていた。
一方、神の住む東の世界には、たいへん美しい織物(おりもの)を織る織姫(おりひめ)が住んでいました。広い広い天の川を挟(はさ)んで二人はそれぞれ暮らしていたのです。
ところがある日のこと、牽牛が牛を連れて散歩(さんぽ)をしていると、いつの間に天の川の東に辿(たど)り着いてしまいました。そこで織姫たちが美しい絹 (きぬ)の着物(きもの)を脱(ぬ)ぎ、川で水浴びをしているのでした。牽牛はその美しい娘たちの姿を神とは知らず知らず眺(なが)めていました。たいへん美しい光景(こうけい)でした。中でも牽牛は織姫の姿に心を奪(うば)われたのです。その瞳(ひとみ)は初めての恋(こい)に目覚めた若者のそれだったのです。
その様子(ようす)を眺(なが)めていた牛の一頭(いっとう)が彼に囁(ささや)きました。
「牽牛よ、あの娘の着物を盗(ぬす)んでしまいな」
牽牛は牛の言うとおりに、織姫の着物をそっと木の枝(えだ)から引抜(ひきぬ)くと、岩陰(いわかげ)に隠(かく)してしまいました。
織姫は川から上(あが)り、着物を捜(さが)すと自分の着物が無くなっているのに、気がつき、慌(あわ)てました。
「あとから行くから」と姉妹(しまい)たちに言いました。そして着物がないので飛(と)べない織姫はその場に裸(はだか)で蹲(うずくま)っておりました。
すると後ろから声をかけられました。「あなたの着物はここにあります、でもお願いがあります」
織姫は声の方を振り向くと、青年が背中(せなか)を向けて立っていました。
「私の妻(つま)になってほしい」と青年は言いました。
「私は天に帰らねばなりませぬ」
青年は岩に身(み)を隠(かく)した織姫の顔を振り返りました。
「私の妻になってほしい」
牽牛の顔を見て、織姫は胸(むね)をつかれました。その凛々(りり)しい姿、その美しい眼差(まなざ)し。彼女は「妻になってほしい」という申し出を受け入れることにしました。
内心、とにかく着物を返してもらえばとも思いました。
やがて二人の間(あいだ)に女の子と男の子が生まれました。織姫は一度も天に帰ることもなく、暮らしたのです。牽牛も幸(しあわ)せ、織姫も幸せを感じ、生まれた子たちもやさしい母と父に囲まれて幸せしでした。
しかしコンロンの山に住む女神(めがみ)が、織姫が牽牛の間に子どもまでつくり人間の世界で暮らしているのを聞いて怒(おこ)り、歯ぎしりをしました。焼(やき)もちだったのです。