「ごめんください。」
「誰だ?」
「へい,横町(よこちょう)の米屋(こめや)でございます。お勘定(かんじょう)をいただきにまいりました。」
「ああ,米屋か。留守(るす)じゃ。」
確かに中から浪人(ろうにん)の声がします。
米屋は,指に唾(つば)をつけ,障子(しょうじ)に孔(あな)を開(あ)けて覗(のぞ)く確かに浪人がこたつにあたっています。
「もしもし,留守だとおっしゃいますが,だんなはそこにいるじゃありませんか。」
と,障子の孔から覗きながら,米屋がいうと,浪人
「こら,ぶれいものッ!障子になぜ孔を開けた?ここは,かりにもおれの城(しろ)だ。その城に孔を開けるとは,なにごとだ!」
「へへい。kれはとんだそそうをいたしました。」
米屋は,慌てて紙を取り出し,唾(つばき)でぺたっと貼り付けました。
「はい。元通り(もとどうり)に直しましたが……。」
すると,中から,
「それでは,もう見えぬか?」
「はい,見えませぬ。」
「そんなら,留守じゃ。」